貿易協定について考える

国会・国政

 

連休明けの24日、衆議院本会議では、日英EPAなどの法案採決が行われましたので、関連して貿易協定について、少し考えたいと思います。

 

TPP参加の2つの理由とTPP11の評価
2018年、TPP11関連法が成立し、国内手続きが完了しました。
これまで日本がTPP交渉に参加するにあたっては国内において賛否両論あり、反対する主な理由は国際競争力が無いとして関税で守られてきた日本の農業をしっかりと引き続き保護すべき、との立場からのものでした。

 

一方、参加に賛成する意見には、二つの理由があったと思います。
その一つ目が、日本が既にEPAの締結で、他国に遅れをとっている実態。
日本企業が国際競争上、不利な立場にあるので、この状況の改善にはTPPに参加すべきだ、というものです。

 

ちなみに、特定の国の間で関税率の引き下げなどを行うのがFTAで、FTAの内容に加えて投資や知的財産保護など、幅広い分野での連携を行うのがEPAと言われますが、現在は同じ意味で使われる場合も多いです。

 

ところで、安倍政権は成長戦略においてEPAカバー率を2018年に70%に引き上げることを目標としていました。
これがどういう状態になったかといえば、この時点で交渉が妥結したTPP11や日EU-EPAを含めると何%かといえば、TPP11と日EU・EPAが発効するFTAカバー率は36%でした。
数字で見れば日本は中国、米国といった日本との貿易シエアの大きな国とFTAを締結していないため、FTAカバー率は20%台にとどまっていましたので、目標は達成できませんでした。

 

参加理由の第二は、TPP交渉には米国が参加しているので、TPPで合意されたルールは、アジア太平洋地域、ひいては世界の貿易・投資ルールに影響を及ぼす可能性があり、そのルール作りに参加すべきとするものでした。

 

そもそもTPPにおけるルール作りは、自由、民主主義、法の支配といった普遍的価値を共有する国々と行うので、安全保障上も大きな意義を持つと説明してきています。
しかし、米国が離脱してTPP11となり、世界の貿易・投資ルールを作ろうという日本政府の目論見はもはや破綻したのでは? と言われた当時の状況もありました。

 

また、米中の貿易戦争が広がる恐れがある中で、自由貿易を堅持する必要性を中国も感じている状況にもあります。
そして今月になって、中国がAPEC首脳会議の場でTPP11への参加を積極的に検討すると表明しました。

 

米国を牽制し域内経済への影響力を強めようという動きが出ている現状があり、日本政府はどのような対応するのかその真価が問わる時が来ています。

 

RCEP締結、米大統領選挙の結果を受けてのTPP
11月15日、日中韓と東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国、オーストラリア、ニュージーランドなど、15カ国が「地域的な包括的経済連携(RCEP)」に合意し正式に署名しました。

 

15ヶ国のGDPと人口規模は世界の約3割の規模を持つ巨大経済圏で、日本の貿易額1位の中国、3位の韓国が含まれる初めての経済連携協定(EPA)結ばれたことは非常に大きなことです。

 

日本企業は、ASEANや中国などを中心にサプライチェーンを構築していますが、RCEPは同地域を共通のルールでカバーするものであることから、企業にとっては米国が参加する形でのTPPの発効がもはや見込みにくい中、RCEPの貿易自由化が質の高いものとなれば、享受できる恩恵もまた大きくなるのはご案内の通りだと思います。

従って、RCEPが妥結に至った今、アジア太平洋地域の貿易自由化がRCEPを中心に進展する可能性があるのですが、一方で大統領選挙の結果を受けて米国が参加するTPPの発効が見通されはじめた現状で、中国がこうしたハイスタンダードな協定に合意しようとするインセンティブがどこにあるのかといえば、今後10年以上先を見据えての動きであることまで、しっかりと見極めないといけません。

 

現状では、中国が「一帯一路」構想に注力する中、アジア太平洋地域の質の高い貿易自由化に向けて、日本がこの中でどのようにしてイニシアティブを発揮していくのか考える時が来ています。

 

英国のEU離脱と日英EPA署名
日英EPと今回の日英EPAはEU離脱のため、すでに合意し発効ずみの日EU・EPAが適用されなくなることから、新たに署名されたものです。

 

11月11日に会派を代表し本会議で質疑に立ったあくつ幸彦議員からは、
①少なくとも EU側から見ればヨーロッパ全体を一つの地域として政治的・ 経済的統合を進めてきた流れに逆行し、EUという共同体全体の利益を損なう可能性もあると指摘した上で、現在、英国とEUは大変苦労し貿易交渉を含む様々な交渉をまとめていること。
②英国とEUの合意より先に日英が貿易協定を結ぶことについて、それも日EU・EPAと同じ条件どころか、キャッチアップ条項によりあたかもイギリスのEU離脱がなかったかのような協定を結ぶことは、EUの存在意義を矮小化するような行為にならないか。
③米国がTPPから離脱し、我が国との包括的なEPAを求めていることを考え合わせると、結局、日本政府は先方の都合に合わせた二国間交渉を受け入れ、我が国が多年にわたり努力し築き上げてきた目標に反して、後追いで内向き志向を肯定し助長しているのではないか。
といった指摘がありました。

 

企業は近年、世界全体で生産体制の効率化を図ることを目的として、生産工程を分割し、各工程を最も適した国で行うといった、複数国にまたがる分業体制を構築しています。

 

従って、各国が個別にFTA・EPAを締結し、貿易・投資に関する制度の数が増加して複雑になるよりも、多数国が参加して貿易自由化の水準が高いFTA・EPAを締結するほうが、貿易・投資の自由化の効果が大きくなります。

 

日本企業は国際競争上、不利な立場にあるので、こうした状況を改善するためには多国間での協定に参加すべきとする立場の見方からすれば、参加することでGDPが幾ら増えるということよりも、むしろ海外需要をどれだけ取り込めるのか、対内直接投資の増加がどのくらい期待されるのか、ということの方が重要だという考え方にも繋がります。

 

日本は人口減少社会の到来で、これまで通りの対応をそのまま続けるようでは、国内マーケットがどんどん縮小していく。
こうした現状を打破する指標となるのが海外需要の取り込みと対内直接投資の増加であると考えるからです。

 

戦後の世界経済は、互いに関税を引き下げることによって国内市場を開放し、貿易自由化を推進してきました。
これをテコとして経済成長を遂げ、その恩恵を最も受けた国のひとつが日本であり、戦後の焼け野原からわずか20年で世界第2位の経済大国とまで言われるようになりました。

 

採決には賛成しましたが、この意味からも日本経済にとって自由貿易を堅持し、保護主義に反対することは大切な原則でした。
こういった観点も踏まえ、これからの世界の中の日本の立ち位置をどう作っていくのかの議論も引き続きしっかり行ってまいります。
ご注目いただければ幸いです。