西太平洋におけるミサイル防衛の問題(「安全保障委員会」質疑)

国会・国政

 

11月27日は朝8時より、私が会長を務めさせていただいている「外交・安全保障・主権調査会」を開催いたしました。
今回は防衛研究所の高橋杉雄 政策研究部防衛政策研究室長をお招きし、「中国の軍備、軍事戦略の現状、特に弾道ミサイルを巡る状況について」と題しご講義いただきました。

早朝から大変多くの議員の先輩方にお集まりいただきました。皆さん本当にありがとうございます。
引き続き活発なご発言をいただき、よりよい議論をさせていただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

そして午後は安全保障委員会が開催され、西太平洋地域におけるミサイル防衛の問題について、会派を代表し質疑に立たせていただきました。

 

対北朝鮮に限定されないイージス・アショア導入の意図
イージス・アショアの導入は、北朝鮮によるミサイル脅威を受け、すでに2016年に検討が始まりました。
当時、イージス艦から発射する迎撃ミサイルである「SM3」と、地対空誘導弾「PAC3」の二段構えのBMD(弾道ミサイル防衛)にもう1段、追加するため、米軍の地上配備型イージスシステムと、在韓米軍に配備されようとしていた高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)が有力視されていました。

 

そのTHAADの導入が見送られ、イージスアショアに決まったのは、報道によると翌2017年6月で、関連経費を2018年度当初予算に計上することが決まったとされています。
そして、その年の8月、米ワシントンで開かれた日米外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)で、小野寺防衛大臣がマティス国防長官に購入方針を伝えたわけです。

 

イージス・アショアの導入の理由として、小野寺大臣は、2017年の北朝鮮によるミサイル危機を挙げ、その後の政府による導入理由の説明でも、この17年のミサイル危機が分かりやすいので挙げられるようです。

しかし、日本に導入されるイージス・アショアが、北朝鮮に対するミサイル対策であると言ってしまうような風潮には、疑問があります。

 

イージス・アショアは、イージス艦に搭載されているレーダーやミサイルを発射するための垂直発射管(Mk41VLS)などを、ほぼそのまま陸上に移植した施設となります。
なので、構造上はイージス艦と同様、多種多様なミサイルを発射することが可能です。
具体的には「垂直発射方式を採用しており、スタンダード艦対空ミサイル、トマホーク巡航ミサイル、アスロック対潜ミサイルなど、幅広い種類のミサイルを運用することができるとなっています。

 

ところが、東欧に配備されているイージス・アショアは、仕様が大きく異なるものです。
これは専用ソフトウェアなどを用いたベースライン9Eと呼ばれる仕様に改修することで、垂直発射管(Mk41VLS)から発射可能なミサイルをBMD専用のSM-3に制限しています。ですので自制的な運用となっているのですが、この背景にはINF条約との関係があります。

 

まず、東欧に配備されているイージス・アショアは、イランの弾道ミサイルの脅威から欧州諸国を防衛することを目的とした計画ですので、ロシアのICBMを迎撃する能力はなく、その戦略抑止(=対米打撃力)に影響を及ぼすことはないと説明してきました。

 

従って、ソフトウェアや電子システムをイージス艦と同様のものにしてしまうと、巡航ミサイルや航空機、短~中射程の弾道ミサイルにも対処可能なSM-6や、トマホークの発射すらも可能となって、INF条約に違反する可能性があります。

 

北朝鮮は2016年と17年にミサイルを40発発射しましたが、いずれも弾道ミサイルでした。
それにも関わらず、日本のイージス・アショアは、SM-3と、巡航ミサイルにも対応できるとされる次期迎撃ミサイルのSM-6、この混合による「総合ミサイル防空」能力(IAMD能力)を付与することを前提に導入が検討されました。

 

日本全土をカバーするのに、THAADは6基いるが、イージス・アショアは2基で済むので、イージス・アショアに軍配が上がったと言われますが、本当は、THAADがBMD専用で、巡航ミサイル対処能力がないことが真の理由ではないか?
BMD対処能力、従って、対北朝鮮対処能力を超える仕様のイージス・アショアを2018、19年段階で導入する意図は何であったのか、について議論させていただきました。

 

なぜこれを聞いたのか。
2018年の防衛大綱に「総合ミサイル防空能力」いわゆる IAMD 能力の強化が打ち出されました。
その意図するところは、従来のBMDが北朝鮮の弾道ミサイル脅威だけを想定していたのに対し、IAMDは、中国やロシアの多様な経空脅威を視野に入れているということです。
そして、その第一号として導入されたのがイージス・アショアだったわけです。
従って、その配備断念は、単に弾道ミサイル防衛を2重から3重に手厚くすることができなくなったという以上の意味があります。
先日の当委員会の場でも、岸防衛大臣から、代替案を検討中でまもなく発表される、というようなお話がありましたので議論させていただきました。

 

ロシアからのクレーム
この当時、INF条約はまだ有効でした。
日本が条約の直接の当事国ではないとはいえ、実質的に米国の管理下にあると言えるイージス・アショアがINF条約違反の能力を持っているとなると、当然、ロシアの反発が想定されました。

 

2018年7月の日ロ両政府による、外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)で、小野寺防衛相が「我が国を防衛する純粋的な防御システムで、ロシアに脅威を与えるものではない」と強調しても、ロシアは、平和条約交渉を含む日ロ関係に悪影響を及ぼすとの主張を降ろすことはありませんでした。
当時、ロシアからは配備断念以外に、具体的にどのような要求があったのでしょうか?

 

防衛省はイージス・アショアの導入コストを抑えるためとして、想定していた巡航ミサイルの迎撃機能の追加を見送りましたが、これは、ロシア対策の意味もあったのではありませんか?

 

日本が導入する「イージス・アショア」についてロシアのラブロフ外相が中距離核戦力(INF)全廃条約違反だと批判し、これに対し、当時の岩屋防衛相は、「巡航ミサイルに対処する能力を加えることができるが、今の段階では考えていない。あくまでも弾道ミサイル対処で導入しようと思っている」と反論したことが新聞でも報じられています。

 

イージス・アショアを日本が導入した理由
BMD対処能力に限定することなく、フル規格でイージス・アショアを導入するには、日本が買い取る形を取ることが必要でした。

 

当初、米国は、ハワイのカウアイ島に設置されているイージス・アショアの試験用施設を実戦配備に切り替えることを計画していましたが、同施設はSM-3以外にも様々なミサイルを発射できる仕様となっていることから、実戦配備に移行した段階でINF条約に違反する可能性があり、断念せざるをえませんでした。

 

しかし、日本が導入するとなると、日本はINF条約の当事国ではないので、そうした制約を回避することができます。
日本は、米国のそうした意図を知った上で、敢えてイージス・アショアの導入に踏み切ったのではないかと考えています。

 

東欧に配備されていたイージス・アショアも、韓国に配備されたTHAADも全て米軍が自前で配備したものなのに、なぜ、莫大な費用を負担して日本だけが自前に拘ったのか、多くの人が疑問に感じています。
以上が、その理由の一つだったと考えるのが自然ですが、6000億とも言われる巨額の費用を負担することで、得ようとしたものとは具体的に何だったのか?といった議論をさせていただきました。

 

イージス・アショアの日本導入は対中国戦略の一環
私は日本のイージス・アショアは、中国のH-6K爆撃機や各種艦艇などから発射される巡航ミサイルを念頭に、SM-3とSM-6の混合による「総合ミサイル防空」能力(IAMD能力)を付与することを前提に導入が検討されたと考えています。

 

核弾頭や通常弾頭を搭載する射程500キロから5500キロの地上発射型ミサイルの保有を禁止したINF条約の当事国でない中国は、米露が手足を縛っている間にミサイル開発を進め、すでに2000発以上を保有するまでになっていました。
とりわけ、中距離ミサイルに着目すれば、中国はアジアで圧倒的優位に立っており、米国の打撃力に依存する日本の安全保障にとって大きな課題になりつつありました。

 

そうした危機認識を背景に、日本政府は度々、米政府に「中国は中距離ミサイルをどんどん開発しているのに、米国は空白状態のままでいいのか」と問うてきたとされていますが、米政府からはどのような反応が当時あったのかも確認させていただきました。

 

委員会では指摘しませんでしたが、トランプ政権が中国に対し貿易や先端技術の分野で強硬策を繰り出したのは、西太平洋における中国の脅威が大きな要因であったかということも考えておく必要があると思います。

 

引き続き次回の質疑でもしっかりとした議論をしてまいりたいと思いますので、ご注目頂ければ幸いです!