「ポストコロナ社会に向けた諸課題について」(科学技術特別委員会 質疑)5月28日

国会・国政

5月28日、「科学技術・イノベーション推進特別委員会」にて「ポストコロナ社会に向けた諸課題について」質疑いたしました。
以下、質疑内容に沿いながらご報告いたします。

 

●『サルと人と森』(石川啄木『林中の譚』)
冒頭、絵本『サルと人と森』(原文は石川啄木の『林中の譚』)の一節から、委員会の出席議員、行政の方々にご紹介させていただきました。

 

「ああ、とうとう人間の最悪の思想を吐き出したな。人間はいつの時代にも木を倒し、山を削り、川を埋めて、平らな道路を作って来た。だが、その道は天国に通ずる道ではなくて、地獄の門に行く道なのだ。
人間はすでに祖先を忘れ、自然にそむいている。ああ、人間ほどこの世にのろわれるものはないだろう。
サルはそう言い終わると、人間が気の毒でたまらなくなりました。
木の下の人間は、サルに真のことを言われたと感じつつも、しかし、それを認めることはできませんでした。そして腹をたて、歯ぎしりをして林を出ようとしました。」

 

●文明の光と影
今年1月、世界中で外出自粛が続く状況を誰が予測したでしょうか?
新型コロナウィルスは、まさにパンデミックで、かくも短時間の間に地球を飲み込み、我々の日常を一変させてしまいました。

 

およそ100年前にスペイン風邪が流行り、日本でも何十万の人が死んだという記録は残っていますが、一度パンデミックが起これば、人々の生活がこれほどまでに変わるということは、多くの今の人々の脳裏になかったと想像します。

 

5月25日、政府は緊急事態宣を全面解除しました。
これは、新型コロナウィルスが制圧されたことを意味するものではありません。現状のままでは経済が持たないので、規制を緩和したに過ぎません。
基本的には、ワクチンが開発され、それが普及するまで感染の拡大は続きますので、第2波、第3波に備えの継続が不可欠です。

 

さらに、新たなウィルス性感染症の襲来は、いつ起こるか分かりません。
ポストコロナ社会でも、直ちに対処できる態勢を維持するために、自粛が日常化するのではないかと考えます。

 

そこで、現状の感染症対策がポストコロナ社会を大きく規定することを踏まえ、いくつかの問題点を指摘しながら、あるべきポストコロナ社会像をお話させていただきました。

 

まず、今回の新型コロナウィルスは、動物からヒトに感染した病原体がヒトからヒトに感染して、パンデミックを引き起こしたということですが、こうしたことが、なぜ、起きてしまったのかについて認識を再度伺いました。

 

橋本厚労副大臣からは中国のコウモリ、あるいはそれを他の動物が介して、発生してきたのではないのかとのことでした。

 

●感染症予防と開発規制の必要性
そもそも、野生生物は、様々な病原体の宿主(しゅくしゅ)になっています。
もちろん、人も「常在菌」と呼ばれる微生物に満ち溢れていて、口の中には100億個、皮膚には1兆個以上の菌がいるといわれています。

 

そうした中で、中国やアフリカでは、コウモリなどの野生動物を食す文化があり、また、世界的にも、ペットブームで動物の病原体がヒトに感染する機会が増えています。
また、その背景として、農地や居住地の造成のために森林の開発が急ピッチで進み、生息地を失ったネズミなどの齧歯類やコウモリが集落に侵入したりして新たな病原体を持ち込むなど、人と野生動物の境界があいまいになっていることがあります。

 

このため、本来、人とは接触がなかった感染力の強い新興感染症(エマージング・ウィルス感染症)が次々に出現している状況にあります。
新型コロナウィルスの宿主もコウモリであると言われているので、まさに「開発」によって、人と動物との境界が曖昧になっていることが、新型コロナによる感染拡大の原因であると考えます。

 

そこで若宮外務副大臣に、感染症予防のみならず、広い意味での自然破壊を防止する観点から、こうした森林の開発を規制する考えはあるか否かを伺いました。
感染症と開発という新たな観点から、大きな提言を国際社会に、日本が先頭に立ってリードしていただくようお願いします。

 

●追跡技術活用と監視型社会
今回の新型コロナウィルスでは、感染拡大を防ぐ対策として、スマホの位置情報や行動履歴など、一人ひとりのデータの集積、いわゆる「ビッグデータ」が新たな武器になるとして、多く国々が活用しています。
おそらく感染症の流行や大きな災害への対応のため個人のデータを活用する流れは、今後加速することはあっても、止めるという選択肢はないと考えられます。

 

しかし、こうしたデジタルデータの活用は、プライバシー保護にどう配慮するか、どうバランスをとるかという大きな課題を抱えています。
実際、諸外国では、政府当局がデジタル技術を駆使して市民の行動監視に踏み込む事例が多々あります。

 

強権的なデジタル監視システムを持つ中国では、政府が感染者の行動を追跡するビッグデータ分析チームを設置し、感染者が使った交通機関の便名や座席番号、駅や空港の出入場記録を集めて、行動を割り出します。
監視カメラの映像をもとにしたとみられる分刻みの動きも公表し、さながら「指名手配犯」の国民監視を行い、73万人以上の濃厚接触者を割り出したとされています。

 

韓国でも、街中の監視カメラが感染者の行動を追っています。
クレジットカードの利用履歴やスマホの位置情報を組み合わせ、感染者の行動履歴を10分以内で特定することができます。
また、自宅隔離中にスマホを持たずに出歩く感染者が増えたため、隔離命令を守らない感染者には任意とはいえ電子腕輪を着けさせています。

 

個人情報の厳格な保護法制「一般データ保護規則(GDPR)」を定める欧州ですら、イタリアやスペインでの感染爆発で風向きが変わり、世論調査でも「ウィルスの拡散防止に役立つならば、自分の人権をある程度犠牲にしてもかまわない」と答えた人の割合が75%に上ったそうです。

 

しかし、冒頭述べたように、感染症対策は、今回の新型コロナウィルスに限られたものではありません。
新型コロナがたとえ制圧されても、次の新たな感染症に備えて、ポストコロナ社会は、新たなウィルス性感染症の襲来に直ちに対処できる態勢を維持する必要があります。
つまり、感染症対策を口実に人権侵害が合法化されるならば、それは、人類が生存する限り永遠に続くことを意味します。

 

人権を最優先に考える国であるなら、以上のような中国モデルや韓国モデルを採用すべきではないと考えます。
こうした観点から、日本ではどのような追跡技術の活用が進められているか、竹本大臣(科学技術政策、IT担当)に伺いました。
防疫と人権のバランスをとることは難しいですが、まず、プライバシー保護をベースに、ビッグデータをうまく利活用するという基本理念を堅持することが重要です。

 

例えば、グーグルとアップルが異例のタッグを組んで開発した技術は、スマホのブルートゥースを使って記録する情報に、定期的に変わる符号を付けることでサーバーには個人特定につながる情報が残らない仕組みになっています。
この技術は、5月中に提供を始める予定で、日本政府とアプリ開発を進める一般社団法人「コード・フォー・ジャパン(CFJ)」も、この技術に対応する予定と報じられています。

 

グーグルとアップルの仕組みを採用する場合でも、データ保存の期間の設定や収集したデータの目的外利用を防ぐことが必要と考えます。
これらの点についてもしっかりと取り組んでいただければと思います。

 

●繰り返される隔離と差別の歴史
各国は感染拡大を防ぐために封じ込め政策、いわゆるロックダウンを採用しています。
日本はロックダウンという厳密な対策が取りにくいので、3密(密閉、密集、密接)を避けるよう要請しつつ、感染者の濃厚接触者を追跡し、隔離してクラスター感染を防ぐ方策を講じています。

 

しかし、こうした隔離措置が、国民の差別感情や利己的・排他的なムードを助長しているように感じられます。
危機の渦中に、エッセンシャル・ワーカーと呼ばれる医療関係者、スーパーの従業員などに対する、陰湿ないじめや有害なデマの拡散が頻発しています。
また、戦時中の隣組のように、周りの自粛状況を監視して、違反していると思った人を脅す輩さえ現れています。

 

海外でも、ウィルスを広げるからという一方的な理由で、米欧の白人がアジア人を差別し、インドのヒンズー至上主義者がイスラム教徒を非難していることがニュースになりました。
人類共通の敵と戦っているにもかかわらず、このように市民の間に分断が広まっていることを、残念に思います。

 

余談ですが、インドの階級的身分制度であるカースト制度も、インドに侵入してきたアーリア民族が、高温多湿のガンジス川流域を支配下に置くに当たり、感染症対策として、流域住民を不浄の民として接触を禁じたことに起源があるようです。

 

そこで、隔離措置が市民の分断を助長しないよう、どのような方策を講じているのか、橋本厚労副大臣にご説明いただきました。

 

かつて、ハンセン病患者への対応で、国は大きな過ちを犯しました。
全国のハンセン病患者を強制隔離することで、人々に病気に関する誤った考えを広め、差別意識を助長しました。隔離はどうしても差別を助長しがちです。

また、感染症への恐怖心は、すでにある差別意識を深刻化しがちです。
国はその事実を踏まえ、常に科学的に正確な情報の周知に努めるとともに、差別の兆しがあれば迅速に対処するよう、くれぐれもお願いをしておきました。

 

●強権政治の歴史と、権力への歯止め
市民の分断は、権力の乱用にも繋がる危険があります。
例えば、国民の間に、隔離対象者の自動追跡を望む意見が多数あると言われていますが、これは、ゆくゆく、最新のデジタル技術を駆使して国民の管理を強化する動きにつながりかねません。
自由で開かれた社会の象徴だったインターネットを、強権政治の増幅装置にしないような法律や規制のあり方を考えるべきだと思います。

 

そうした観点から看過できないのは、安倍首相が今回の新型コロナ禍を根拠に、憲法に「緊急事態条項」を設ける意図を述べていることです。

 

しかし、憲法に新たに「緊急事態条項」を設けて対応するということは、首相が新たな憲法上の規定の下に緊急事態宣言をすれば、内閣は議会に諮ることなく、法律と同じ効力を持つ「政令」を出すことができ、国民はこれに従う義務を負うという意味です。

 

それは政府に権限を集中させ、憲法の下での権力分立と人権保障を一時的に停止する措置であって、「国家緊急権」とも呼ばれますが、我々は、大衆運動や言論を弾圧する根拠となった1928年の治安維持法改正が、当時の「緊急勅令」で行われたことを歴史の教訓とすべきです。

 

ついては、新たな感染症対策の一環として、憲法に「緊急事態条項」を設けることをどのように評価しているのか、宮下内閣府副大臣にお考えを聞かせていただきました。

 

安倍首相は、5月3日の夕刊フジのインタビューで、新型コロナウィルスの感染拡大を踏まえ、憲法を改正して「緊急事態条項」を設けることについて、「そうした議論を事前にしっかりとして、準備をしておくべきだった」と述べています。
自民党総裁としての発言、と言ってしまえば簡単ですが、私は、コロナに乗じて改憲を推し進めようとする意図に警鐘を鳴らすことが重要と考えて、伺わせていただいた次第です。

 

●社会のバーチャル化と、人間本来の応答性
外出自粛や都市封鎖で、テレワークが広がり、ITを使ったオンライン会議がまさに突然普及しました。
オンライン診療、オンライン面接、オンライン授業も広がっています。
工場で働く製造業では自動ロボット化が加速するに違いありません。
契約・出勤簿などでの押印という習慣も、早々消える運命にあります。

 

しかし、オンライン化は、私たちがこれまで頼りにしてきた社会的絆を断ち切るという負の側面もあります。
元々、グローバルな人と物の動きが加速する現代では、家族や共同体の絆が薄れていたので、それを補うために、お祭り、スポーツ、コンサートなどのイベントを活発化させてきました。
ですから、感染防止のために人々の接触が制限され、集まれなくなると、感動を共有できない社会が生まれてしまう可能性があります。

 

特に子供たちへの影響は深刻です。
単なる知識は、オンラインの個別学習で補完できるかもしれませんが、気持ちを通じ合わせることができず、社会的な発達に支障が生じます。

 

教育の基本は集まって一緒に学ぶことですから、早急な対策が求められます。
政府の基本的な考えと対策を亀岡文科副大臣に伺いましたが、その必要性からスピード感をもって全力で対応していく、とのことでしたので、しっかりと進めていただければと考えています。

 

●ポストコロナ社会に向けて
今回の質疑では、冒頭、絵本『サルと人と森』から引用しました。
「現代人が迷路を脱するヒントはこの絵本にある」と生前おっしゃっていた、私の師でもあるNPO法人「森びとプロジェクト委員会」元理事長の故 岸井成格氏の言葉を、最後にご紹介させていただきました。

 

「今、世界も日本も文明の岐路に立っています。
近代・現代文明が行きづまり、あらゆる分野で矛盾やホコロビが噴出しています。人類の意識も大きく転換をせまられています。
文化人類学者のトール・ヘイエルダールさんは、こう語っています。
『進歩の行き先は何ですか?その目的は何ですか? 突き詰めれば、人が笑顔で幸せに暮らせること、ではないですか? 人の幸せは、便利なものに囲まれていたり、ハカリにかけて計るものではありません。幸せは感じるものです』と。どうしたら迷路を脱することができるのか。」

 

ポストコロナ後の社会を分断でなく、どう手探りしながら世界と力を合わせ築いていくか。このための努力を、引き続きしっかり行ってまいります。

 

愛する地元から国を変える!
まっとうな政治。正々堂々と!

衆議院議員 しのはら豪(立憲民主党、神奈川1区)
Let’s GO!!!!!

 

 

『サルと人と森』(森びとプロジェクト委員会)http://www.moribito.info/book.html