自衛隊の中東派遣問題について(「安全保障委員会」質疑より)
本日は安全保障委員会の閉会中審査に、会派を代表し質疑しました。
内容は自衛隊の中東派遣問題についてです。
まず、大原則として、日本国憲法は「海外派兵」を明確に禁じています。
「武力の行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣すること」は許されないということです。
従って、自衛隊を派遣する地域は、「国又は国に準ずる組織」による戦闘行動が行われていない地域、いわゆる「非戦闘地域」でなければなりませんし、仮に、戦闘行為が発生した場合には当該地域から撤収しなければいけません。
【「ホルムズ海峡に近いオマーン湾」で活動する正当性】
今回、海上自衛隊の護衛艦及び哨戒機を派遣するホルムズ海峡に近いオマーン湾は、昨年5月にトランプ政権がイラン産原油を全面禁輸した後、立て続けに発生した日本関係船舶を含む石油タンカーへの攻撃事件の発生現場です。米側はこれらの事件がイランによる攻撃であると述べています。
こうしたホルムズ海峡に近いオマーン湾で自衛隊が活動することの憲法上の正当性をどのように説明するのか。
そもそも憲法は、「国際的な武力紛争を解決する手段としての武力の行使」を禁止しています。
ですので、国際紛争が行われている地域に自衛隊が行くということは、あってはならないことです。
伝統的な国際法の解釈では、国際紛争とは、「国又は国に準ずる組織による戦闘行為」に他ならないわけですが、具体的な事件がそれに該当するか否かは、国際性、計画性、組織性、継続性という4条件がその判断基準にこれまでなってきました。
ところが、政府は昨年のトランプ政権によるイラン産原油の全面禁輸後、発生した一連の石油タンカーへの攻撃事件ですが、その攻撃主体が誰であるのか必ずしも定かではないとしていて「現在、直ちに自衛隊アセットによる我が国に関係する船舶の防護の実施を要する状況にはない」と判断し、今回、ホルムズ海峡に近いオマーン湾で自衛隊が活動することに何ら問題ないと考えています。
しかし、「継続性」の観点というのは、直近の事件からどのくらい時間が経過しているのかという、単純な時間の問題ではありません。
ここで言う「継続性」の問題とは、事件を勃発させた条件がまだ継続しているのか否かということが本質であって、そうしたマグマが溜まっていれば、いつでも爆発する危険性があるということです。
そこで、石油タンカーへの攻撃事件再発の危険性が本当に遠のいたのか、なぜ遠のいたと考えるの説明を求めましたが、継続性を無視した回答を連発し続けて大切な論点を無視する答弁は、大変残念なものでした。
【「ホルムズ海峡に近いオマーン湾」は戦闘地域ではないのか?】
河野防衛相は、1月9日、記者団の取材で、米イランの軍事衝突が起きた場合の対応を問われた際、「そのようなことは起きないだろう」と否定し、自衛隊の派遣は問題ないとの認識を示し、本日の委員会でも同様の説明を繰り返しました。
しかし戦闘行為とは、正規軍同士がぶつかり合うことだけに限られるものでなく、「国又は国に準ずる組織」による組織的、計画的な武力攻撃であれば、憲法が問題とする戦闘行為です。
その点、ホルムズ海峡に近いオマーン湾は、昨年の6月20日にイスラム革命防衛隊が米国の無人偵察機「グローバルホーク」を撃墜した舞台でもあります。
そして、イランはこの攻撃の国際法上の根拠を国連に対し、「自衛権」であると報告しているので、すでにこの時点で、戦闘地域になったと考えられます。
本日の質疑でも「当事者でないので国際法上の評価にコミットしない」という主旨で、政府は評価をしませんでしたが、これは大問題です。
なぜならば、「当事者でないので国際法上の評価にコミットしない」ということが断じて認められないのは、その評価が我が国の憲法上の評価に直結しているのであるから、我が国政府としての評価をする必要性があるわけです。
また継続性の問題は、物理的な時間だけの問題ではなく、領海と公海とを区別して、武力行使の危険性を論じるのは、常識的に考えても全く無意味であると考えます。現に、米国は、撃墜場所が領海外であったと主張しているわけです。
【海上警備行動発動の問題】
政府は、日本関係船舶が攻撃を受けるなど不測の事態が生じた場合は、防衛省設置法の「調査・研究」ではなく、自衛隊法82条の海上警備行動に切り替え、日本籍船には武器を使用して防護するとしています。
しかし、今回わが国が関係する船舶が海上交通を脅かされるという事態の背景には、米国とイランの間の一触即発の軍事的緊張があるので、船舶等への攻撃には、国家主体が直接、間接に関与している可能性が極めて高いと考えられます。
こうした情勢にあって護衛艦が国際法上の警察活動に当たる「海上警備行動」を根拠に活動することは、もはや警察活動とは言えず、その武器使用が武力行使と評価されることもありうると考えられます。
政府は今回の派遣は、あくまで情報収集態勢強化のための派遣であって、海上警備行動の実施にあたっては、情報収集活動によって得られた知見に基づいて、適宜適切に判断して行きたいと説明しています。
しかし政府が、米国が推し進める有志連合に参加せず、独自の立場で活動するとしたのは、そもそも日本国憲法が禁止する武力行使の一体化の懸念が拭えなかったことが原因ではないです。
それに、たとえ独自の立場で活動すると言っても、活動エリアは、有志連合軍と重複しているのが実態です。
そこで海上警備行動を実施すれば、船体射撃が武力行使と評価される危険性は回避できない。そもそも、不測の事態が生じた場合、海上警備行動に切り替えるとする想定が非現実的です。
【「開戦前夜」の問題】
1月3日に、米軍がバグダッド国際空捲の近くで、イラン革命防衛隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官らが乗った車両を無人機で攻撃して殺害し、その報復として、イラン革命防衛隊が、イラクの米軍が駐留するアサド空軍基地やアルビル基地にミサイルで攻撃したことから、一時は、両国の軍事的な正面衝突が避けられないと考えられましたが、イランのミサイル攻撃が極めて抑制的なもので、トランプ大統領も直後に、米軍によるさらなる報復攻撃は避けたい意向を示したので、一触即発の危機は回避されたように思われます。
しかし、緊張の根源となったイラン産原油の全面禁止は維持され、経済制裁はさらに強化されようとしています。
中東に駐留する米軍を敵視するシーア派民兵組織による米大使館や米軍が駐留する基地への散発的な攻撃は、依然として続き、いつ米軍の反撃を招いてもおかしくない状況も続いています。
つまり、現在も「開戦前夜」の危機的状況は、収まっていないのです。
こうした中で、自衛隊の派遣は当面、中止すべきと考えますので、このことを強く政府に求めました。
政府の見解は「中止しません」の一言だけで、極めて不誠実だったことが残念です。
なぜならば、国際問題を解決するに際しては、平和的な話し合いによるか、さもなければ、力によるかしか方法はありません。
トランプ政権は、イラン核合意から一方的に離脱した後、経済制裁の上でも、また、軍事的にも最大限の圧力を掛け、今後もその圧力を強化しようとしています。
その目的は、イランを話し合いの場に引きずり出すことですが、イラン指導部が圧力に屈して話し合いに応じることは当面ありえないと考えます。
こうして両国がにらみ合いを続ける以上、いつ戦闘行為が発生してもおかしくない状況にあるわけで、こうした状況に自衛隊を派遣することは、いつ武力行使に巻き込まれても不思議ではないのです。
【協力の問題~第5艦隊司令部に有志連合軍司令部は開設】
政府は、米国提案の有志連合「海洋安全保障イニシアティブ」には参加せず、自衛隊は独自活動を行っていくが、引き続き米国とは緊密に連携していくとしています。
しかし、「連携」や「協力」であっても、有志連合軍の目的・任務が武力行使を伴うものである以上、当該有志連合軍の武力行使と一体となるようなものは憲法上許されません。
まず問題なのが、現地で収集した情報はバーレーンの米中央海軍司令部に自衛隊の幹部自衛官を派遣して、米国と個別に情報共有するとしていると報じられていることです。
連絡要員は第5艦隊司令部に派遣するのであって、あたかも有志連合軍司令部に派遣するのではないと政府は言っています。
しかし、実は有志連合軍司令部は、第5艦隊司令部の建物に開設されています。
その実態は、有志連合軍司令部は、第5艦隊司令部に付属するもので、第5艦隊司令部にいれば、事実上、有志連合軍司令部とも連携可能です。
独自派遣ですので、形式上、有志連合司令部ではなく、第5艦隊司令部に派遣するというのは当然ですが、オペレーション・センチネルの有志連合司令部自体、第5艦隊司令部の傘下にあり、同じ敷地内にある以上、オペレーション上の一体化の懸念は拭えないと考えます。
【対潜哨戒機等の米軍とのデータ連携】
P-3Cは元々対潜哨戒機として開発されたもので、システム上、米海軍の対潜センターと直結しているので、海自のP-3Cが収集した情報は自動的に米海軍にも提供されることになるのではないかということについても問いました。
同様のデータのリンケージは、護衛艦「たかなみ」と米海軍の間にもあるのではないではないか?
そうしたデータ・リンクは、結果として有志連合軍の武力行使と一体化する危険性があると考えるからです。
武力行使に直結する情報であるか否かの判断は、実際には、米軍にその情報が渡った後でないとはっきりとは分からないというのが真相ではないでしょうか?
だとすれば、その可能性がある情報を類型化して、取り扱いを別にするという工夫が欠かせないと考えますが、そうした、注意を払う考えについても今後さらに聞いていきたいと思います。
【フジャイラ港問題】
1月13日に安倍首相がUAEアブダビ首長国のムハンマド皇太子に自衛隊派遣への協力を依頼して結果、UAE東部のフジャイラ港を海自部隊の補給拠点とする方向で調整に入ったと報じられています。
実は、このフジャイラ港は、アフガニスタンにおける不朽の自由作戦(OEF)を支援するためペルシャ湾を含むインド洋上で海上阻止活動(MIO)を遂行する米軍等の連合国艦隊(COALITION)、具体的には、米第5艦隊の管轄区域(AOR)内に編成された多国籍艦隊CTF150及びCTF152に対し、テロ特措法に基づいて2001年から約10年間、海上自衛隊の補給艦及び護衛艦が給油等の協力支援活動を行なった補給基地だったわけで、いわば、使い慣れた港湾です。
※不朽の自由作戦(OEF)=2001年の同時多発テロ事件の報復として、国際テロ組織アルカーイダを匿うアフガニスタンのタリバーン政権に対し米英両国が開始した軍事作戦の名称
※海上阻止活動(MIO)=アフガニスタンにおける不朽の自由作戦(OEF)の一環としてインド洋におけるテロリスト及び関連物資の海上移動の阻止、抑止を目的として行われている活動
【有志連合軍の補給基地でもあるフジャイラ港】
UAEは有志連合軍の一員でもあり、フジャイラ港は米軍を含む有志連合軍も共同使用すると考えられます。
こうした状況は、政府は現在は具体的な港の名前は言えないとの答弁でしたが、仮にこの港が自衛隊護衛艦の補給基地になった場合には、厳密には「独自派遣」の要件を欠いていると言えます。
なぜフジャイラ港が問題かといえば、フジャイラ港がホルムズ海峡に近く、また、石油タンカーへの攻撃事件のあったオマーン湾の現場に極めて近接しているからです。
おそらく、日本関係船舶への攻撃、あるいは、他国船舶への攻撃があるとすれば、この沖合である可能性が高く、その意味で、多国籍軍の活動と一体化する危険性がこの港にはあると考えられ、防衛大臣にそうした危機感が薄いことは問題ではないかと指摘し本日の質疑を終えました。
私は、自衛隊を派遣する以上、十分な正当性、国際的にも批判されることのない正当性が不可欠であると考えています。
その意味で、これまで国連安全保障理事会の第7章決議の存在を大事にしてきた歴代政府の姿勢は大いに評価できると考えます。
反対に今回の派遣で新法を作れない理由も、原則的にはこれまでの派遣と違い、国連安保理決議がないので、作りたくても作ることができないのだと考えています。
だからこそ、防衛省設置法を無理筋で使用する。これはあってはいけないことです。
そうでなければ、危険を冒して派遣される自衛隊員の皆さんはどうなるのでしょうか。あまりにもひどいと考えるのではないでしょうか。
こういった意味でも、今回の派遣によってこれまでの憲法、そして国際法等への考え方がないがしろにされることにならぬよう、通常国会でも引き続きしっかりと議論重ねてまいりたいと思います。