安全保障委員会 報告(香港問題、イージス・アショア、敵基地攻撃能力、国家安全保障戦略 NSS 改定)
7月に入ってからの豪雨によって犠牲になられた方々に哀悼の意を表するとともに、被災された方々にお見舞いを申し上げます。
また、現在も消防団やボランティアの皆さま、消防や警察、自衛隊や行政等、多くの方々が精力的に活動されております。
深く敬意を表しますとともに、心より感謝を申し上げます。
さて、本日は「安全保障委員会」にて質疑をいたしましたのでご報告させていただきます。(閉会中審査)
主な内容は香港問題とミサイル防衛等についてです。
【香港問題】
中国の全人代常務委員会で6月30日、香港での反体制的な言動を取り締まる「香港国家安全維持法(国安法)」が成立し、即日施行されました。
国安法は国家分裂や政権転覆、テロ活動、外国勢力との結託・海外勢力による国家の安全への危害などについて、無期懲役以下の刑事罰を科すものです。
香港ではすでに中国批判などの言論を控える萎縮の空気が漂い始め、民主派団体は、迫害を恐れて相次ぎ解散を表明し、海外に逃れようとする民主活動家が出ています。
これは、1997年の香港返還に際して、共産党政権が宣言した「一国二制度」の下での高度な自治を「50年は変えない」とした国際約束を反故にする行為です。
従って、もはや香港だけの問題でなく、自由や人権を尊重せず、既存の秩序に挑む中国とどう向き合うか、という国際社会全体の問題ではないかと問われています。
すでに欧米では制裁やら海外に逃げ出す香港市民の受け入れを表明したりしているところですが、アジアを代表する民主主義国家である我が国として、まずやるべきことは、習近平国家主席の国賓来日が現状では実現不可能なことを中国に伝え、また、海外に逃れようとする香港市民、特に民主派活動家に対し、どのような対応をとるつもりかを政府に問いました。
●世界有数の貿易・金融拠点としての香港
世界有数の貿易・金融拠点として香港が栄えたのは、自由で開かれた社会とそれを担保する法治が維持されてきたからです。
そうして繁栄する香港は、社会主義を維持して経済発展を目指す中国にとっても、日米欧などとの間でヒト・モノ・カネが行き交う「結び目」として重要な意味を持ってきました。
今回の事態を受けて、トランプ米政権は、「もはや一国一制度だ」として香港への関税優遇措置の撤廃など圧力を強めています。
一方、習近平指導部は、香港の混乱に米国の影をみており、両大国は香港をめぐって通商紛争にとどまらない全面対立の様相を強めています。
こうした中で、香港が国際ビジネス都市としての基盤を喪失すれば、中国のみならず、世界経済全体が傷つくことになります。
特に米中の間に立つ我が国として、どのように対処するのか、政府にきちんと対応するよう話しをさせていただきました。
●台湾問題
「一国二制度」はそもそも70年代に、当時の最高実力者だった鄧小平が台湾の平和的統一のために発案した考えが土台にありました。しかし、今回、中国はその試みを自ら打ち壊し、平和的統一の道を閉ざしてしまいました。
習近平指導部は、すでに、台湾への軍事的な圧力を強める行動をとりつつあり、これは、尖閣をめぐる東シナ海、あるいは、南シナ海での中国海軍の動向とも密接に関連しているわけですが、日本として、こうした動向にどのように対処していこうとしているのか伺いました。
河野防衛大臣からは我が国として、国際連携をしっかりとって対応していくとのお約束をいただきました。
【イージス・アショアの配備停止】
●配備停止の決断時期
2016年から17年にかけての北朝鮮の弾道ミサイル脅威に対抗するためとして、導入を決定し、秋田・山口への配備を進めてきた陸上配備型のミサイル・システム「イージス・アショア」が突然、配備停止と発表されました。
河野大臣は、その理由として、迎撃ミサイルを打ち上げた際に切り離すブースターが落下する際の安全性を担保するには、およそ10年の大規模なシステム改修期間と、2千億円の追加費用が必要になることが判明したためと説明しました。
元々、イージス・アショアの導入は、戦闘機F35や早期警戒機E2Dの追加購入同様、2017年2月のトランプ大統領との初の日米首脳会談後、同政権による駐留米軍のコスト負担割合の引き上げや対米貿易黒字の削減要求を乗り切るために官邸主導で決定したのではと言われています。
果たして、配備のための造成費やミサイルの取得費(1発30億円超)を除いても総額4500億円と見積もられる巨額の費用に見合った防衛効果が得られるのか、専門家からも疑問が呈されていましたので、配備停止は、当然の措置で歓迎するところです。
しかし、イージス・アショアの導入理由は、1基あたり約1100億円かかり、日本全域の防護に6基が必要なTHAADと違い、2基で日本全体を守ることができ、さらに、一隻1500億円程度かかるイージス艦よりコストを抑えられるという理屈だったわけですから、2019年1月に米国防総省がイージス・アショア2基の日本への売却を承認し、関連費用を含めた価格が防衛省の予定した1600億円を遥かに超える約2350億円(発射装置や施設整備の費用を除いた金額)と発表した時点で、中止を決断すべきだったと考えます。
背景には、FMSの問題、トランプ政権の体質の問題があるとは承知していますが、この問題の本質には、政府において、イージス・アショア導入に関わる費用対効果が綿密に検討されたとはとても言いがたい事情があると考えます。
もちろん、政治的な要因を排除することは不可能ですが、総額25兆円余の今年度補正予算の財源を全額借金で賄い、今後もさらに借金が膨れ上がることが予想される中で、聖域なく全ての案件を洗い直す覚悟を政府に求めたいと思います。
北朝鮮の最新の短距離弾道ミサイルは変則軌道を描くことでミサイル防衛網をかいくぐるとされる中、防衛省はイージス・アショアの導入コストを抑えるため、想定していた巡航ミサイルの迎撃機能の追加を見送りました。
この時の判断基準は何だったのでしょうか。費用対効果であれば、どの程度の費用であれば可能だったのでしょうか。
●人手不足に悩む海上自衛隊の負担軽減策としてのイージス・アショア導入
イージス・アショアの配備のもう一つの理由としては、日本に飛来する弾道ミサイルを警戒監視するために、常時、1-2隻のイージス艦を日本海に展開させていることが大きな負担となっていること、また、イージス艦は近年、中国の活発な海洋進出を受け、尖閣諸島を含む南西諸島の警戒監視の任務も増えているので、負担軽減になることが指摘されていました。
この点、2018年7月に進水した「まや」は、従来の「こんごう」型が搭載している迎撃SM-3ブロック1A(射程約1000km)よりもさらに広範囲を防衛できるSM-3ブロック2A(射程約2000km)を搭載するので、「こんごう」型では日本列島を防衛するために二隻の配備が必要であったのが、「まや」では一隻で日本列島の広い部分をカバーすることができ、二隻目のイージス艦を別の任務に振り向けることができるようになります。
また、イージス艦は2021年3月に全8隻の体制が整い、この時点で、「まや」と同じ弾道ミサイル防衛能力を備えるイージス艦の数は、「あたご型」2隻の改修もあり、計4隻体制になるので、今回イージス・アショア導入を断念したとしても余り支障ないのではという議論が出てきます。
イージス・アショアの計画断念を受けたミサイル防衛(MD)の代替策として、海上自衛隊のイージス艦を更に2隻程度増やし、業務の一部を陸上自衛隊員に担わせる案を政府が検討していることが報じられていますが、イージス・アショア導入が決断された2017年は、6隻体制で運用されていたので、現状は、更に2隻が加わり、その上、ミサイル能力も増強されて、かなり負担軽減されていることになります。
それでもイージス・アショアの代替に更に2隻必要だというのは、全く費用を無視した議論だと思います。
【敵基地攻撃能力】
通常国会の閉会から一夜明けた6月18日、安倍首相は記者会見で、安全保障のあり方について今夏に国家安全保障会議(NSC)で集中的に議論し、新たな方向性を打ち出す考えを示す中、敵基地攻撃能力の保有に言及しました。
確かに、イージス・アショアの導入によって「拒否的抑止力」は上がるわけですから、それが出来ないとなると、費用対効果の観点からも、反撃能力を持つことが望ましいとするのも一つの考えだと思います。
しかし、北朝鮮はミサイル技術を年々向上させ、最新の短距離弾道ミサイルは変則軌道でミサイル防衛網をかいくぐる能力があるとされ、また、中国は人工知能を搭載した無人機や、音速の5倍以上で飛行する極超音速兵器を開発中とされる中で、これに対応した能力を持たないイージス・アショアを断念したからといって、本当に「拒否的抑止力」がどれほど下がるのでしょう。
●攻撃はブースト段階のミサイル本体のみ
それでも反撃能力、つまり、敵基地攻撃能力にこだわるならば、それが合憲とされるには、「先制攻撃」に当たらないことが必須で、従って、我が国は、敵国がミサイル攻撃に着手した後でなければ攻撃できません。
そこで、2003年に、当時の石破防衛庁長官は
「東京を灰じんに帰してやるというふうに言って・・・燃料を注入し始めた・・・まさしく屹立したような場合ですね、そうしますと、それは着手と言うのではないですか」
と答弁していますが、近年はミサイルの固体燃料化による発射時間の短縮化と移動式発射台 (TEL)による発射の隠蔽化が進んだので、石破氏の答弁のように「発射の兆候」をつかむことも難しいので、弾道ミサイルが発射された時点で(平l5.5.28、参・事態対処特委宮崎内閣法制局長官答弁)、なおかつ、我が国に対して飛来する諾然性がかなり高いと判断される場合(平15.l.24、衆・予算委秋山内閣法制局長官答弁)にのみ攻撃が許されることになると考えます。
敵基地攻撃と言いながら、攻撃が許されるのは、ブースト段階のミサイル本体だけであって、発射台や基地そのものを攻撃することは憲法との関係があると考えます。
北朝鮮は日本を射程に収める弾道ミサイルを既に数百発、実戦配備したとされています。
どこから攻撃されるか分からない中で、攻撃の意図とそのミサイルが我が国を狙っていることが判明するのは、実際上、発射前ではあり得ず、発射後にならざるを得ません。
従って、攻撃を阻止する手段は、ブースト段階のミサイルそのものであって、ミサイル発射施設を攻撃する行為は、報復行為と見なされる可能性があるので避けるべきだと考えます。
●韓国との関係
また、ブースト段階のミサイル本体への攻撃は、当然ながら北朝鮮領内で行われます。
他方、分断国家である韓国は、憲法で北朝鮮領域を韓国領であると定義しているので、韓国の了解なく攻撃することは避けるべきだと考えます。
北方領土に関して、我が国の主権を犯すような第3国の行動は、日本政府として認められないように、韓国も半島全体を領域であると宣明して成り立つ国家である以上、譲れない一線だと思います。
●「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」構想との関係
米国は、2014年10月に太平洋IAMDセンター(Pacific IAMD Center)をハワイに設置し、アジア太平洋において「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」構想を進めております。
従って、弾道ミサイル防衛においては、米海軍のイージス艦が海上自衛隊及び韓国海軍と常に連携しつつ所要の態勢をとっており、米陸軍もペトリオット部隊を韓国と沖縄に配備するとともに、AN/TPY-2レーダーにより北朝鮮のミサイル発射を監視しております。また、これに加えて、THAAD部隊が2013年からグアムに、2017年には韓国に配備され、監視が強化されました。
さらに、この「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」構想には、敵の航空・ミサイル攻撃を未然に防止するための策源地攻撃作戦が含まれ、米軍が対応するとしております。
特に、この攻撃作戦については、同盟国の関与なく「米国の選ぶ時期と場所において(at the time and place of its choosing)」行うとしております。
従って、日本が独自の敵基地攻撃能力を整え、独自の判断で策源地を攻撃する余地はなく、まさに、矛の役割を米軍に任せるのが日米協力のあり方だと考えますが、敢えて、日本が独自の敵基地攻撃能力を持つという場合、米国の「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」構想との関係はどのようになるのか。
日本も2018年改定の防衛計画大綱で、この構想の一部を採り入れましたが、日本が独自の敵基地攻撃能力を保有するためには、IAMD構想を日本も本格的に導入し、日米の一体化を進める以外に方法はないと考えます。
しかし、それは集団的自衛権の限りない行使に他ならず、そのような状態であれば、現行の憲法の範囲内で何ができるかという話しから離れます。
個別的自衛権の発動で日本が危ない状況ならこれは否定するものではないしそのケースが半分以上だと思いますが、そうでない場合、すなわち米国がやることに対して、例えばグァムの基地がやられたので存立危機事態だといって、一緒に行きますよとなると、かなり怖い話しになります。
【国家安全保障戦略(NSS)の初改定:敵基地攻撃能力】
●NSS改定の中身
さて、陸上イージスに代わるミサイル防衛について検討が始まる中、6月19日には、国家安全保障戦略(NSS)の初改定の方針が確定したと報じられました。
政府は今秋にも有識者による懇談会を設置し、国家安全保障戦略(NSS)の初改定に向けた議論を本格化させ、さらに、この有識者懇談会の結論を受けて、年末にもNSSを改定するとされています。
NSS改定の柱は、「ミサイル防衛」「ポストコロナ」「経済安全保障」の三つだそうですが、この「ミサイル防衛」では、敵基地攻撃能力の保有を明記することが主眼になるということでしょうか。
安倍首相の意図が敵基地攻撃能力の保有を明記することにあるとしても、実際にそうなるかは別の問題ですから、確かに、防衛大臣の立場で答えるのは難しいと考えます。
しかし、イージス・アショアを断念したからといって、それに代わる抑止力として敵基地攻撃能力を保有すると考えるのは単なる軍事論の世界の話に過ぎないわけですから、これからの議論に関わる防衛大臣には、「ステーツマン」としての大局的な判断をお願いしたいと思います。
●全面戦争に発展する敵基地攻撃
敵基地攻撃は、北朝鮮との全面戦争を覚悟しないで行うことは不可能だと考えます。
とすれば、在韓邦人のみならず、在韓・在日米国人の本国避難を事前に行う必要がありますが、そうした作戦も含めて、政府は敵基地攻撃能力を保有することをNSSに明記することが必須です。
なぜならば、2017年の秋、トランプ政権は、韓国と日本に住む数十万人の米国市民を早期退避させる計画を検討しました。
しかし、退避行動を行えば北朝鮮が「米国が開戦準備をしている」と受け止め、「読み違えによって容易に戦争が起こり得る」と判断して、退避行動を取りやめました。
敵基地攻撃は、退避行動なくしてはあり得ません。
そして攻撃すれば必ず反撃を招き、甚大な被害を覚悟しなければなりません。攻撃すれば被害を防げるという単純な話ではないことを、必ず明記すべきだと考えます。
本日の質疑のテーマは、我が国の今後の安全保障政策の根幹を担うものでありますので、大変重要です。
私としては、引き続き委員会等でしっかりとした議論を政府与党と続けてまいりますので、ご注目頂ければ幸いです。
河野太郎 防衛大臣
若宮健嗣 外務副大臣
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衆議院議員 しのはら豪(立憲民主党、神奈川1区)
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